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「そんな顔すんなよ。」
口を尖らせるAに、ユンギは困ったように笑いながら大きな手のひらでAの頬にかかった髪を払う。Aがその大好きな手にうっとり擦り寄っていると、わずかの間をおいてバスは頂上付近に停車した。ユンギに手を引かれるまま降りると、眩い太陽が二人を照りつけるが吹き抜ける風が心地良い。
「もう少しだな。」
『意外と歩いたもんね。』
「此処から少し斜面になるから、きついなら休むか？」
『ありがとう、でも大丈夫。あの頂上でしょ？』
彼は一つ頷いた。小高い丘に登る為に丸太階段が設置されている。ところどころ年月の感じる部分はあるものの整備がされているのか、風によって舞った葉などは横に退けられていた。頂上までのおおよそ数十段の階段を先に登りきったユンギは、一人感嘆の声を上げている。早く、と急かす背中にAも駆け足で残りの段を踏みしめた。
『すごい』
そこは一面の向日葵だった。真っ直ぐ長く伸びた茎には黄色く大きな花が咲き、ゆらゆらと夏風に揺れていた。一面黄色の絨毯に覆われたこの場所だけ、まるで違う世界に飛んで来てしまったかのように思える。思わずため息を付きたくなるほどの光景に、Aはぐるぐると辺りを見回す。向日葵ならば大邱でもいくつか見かけることはあったが、ここまで広い向日葵畑を見た事は無かった。Aが感嘆の声を上げている姿を見て、ユンギは優しく笑む。
「綺麗だろ。見せたいって思ってたんだよ。」
『初めて‥こんなにいっぱいの、向日葵を見るのは。』
「来たいって言ってたもんな、今年は来れて良かった。」
観賞する為のものだろう、木製の長椅子が丁寧に用意されている。二人はそこへ腰を掛けると、それから同じ首の角度で向日葵を眺める。どれだけの時間眺めていたかは分からない。Aはふと、ユンギに半身を向ける。その様子に気づいたのか、ユンギは向日葵を見つめていた目線をAへと向けた。
『私、ユンギが好き。』
Aの突然の言葉で、二人の間に空白が生まれた。風の音や木々の擦れる音も聞こえないくらいしんとして、交わった目線だけが唯一この世界に時間が流れている事を教えてくれていた。いつか伝えるつもりだった言葉を今零すような予定はなかった。しかし、きっと伝えるならば今なのだろうと思った。夢のような光景の中で伝えれば、断られた時に冗談だよ、と笑って誤魔化せるのではないかなどと思ったのかもしれない。
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作者名：mitsu | 作成日時：2021年9月26日 14時
