行ったり来たり行き止まり

30 ページ30

ハッと気付いた時には当然もう遅い。
だからドユンが'ユンギ？'と眉を顰めていて、運悪く近くにいたBTSファンの同期にもそれが聞こえていて


「Aの家ってユンギと同じアパートだと思ってたけど、まさか隣がユンギ…なの？」


やや震えた声で歓喜の目をした同期が私とドユンに近付いて来て言った。
もう逃げようがない。
たった今自分がその名前を言ってしまったのだから。

でも大事にしたくなくて'小さい声で'と前置きをした上で


「…そう、隣がユンギさんの家、なの」


'ひゃあ'と、ほぼ空気で構成された悲鳴を上げた同期が顔を覆って身悶えをした。
ドユンはというと眉を顰めたまま、左下辺りを見つめて何かを考えているように見えた。

そして名前をうっかり白状してしまった私はふぅと自分を落ち着かせる為に息を吐いて、携帯をキーボードの横に置く。


「だからA、ユンギの歌聞き始めたんだね」


BTSファンの同期の言葉が続いた後で


「…ユンギの歌？もしかして、あのSUGA？」


何かを考えていたドユンがまた口を開いて


「そうだよ、SUGAがユンギさん、ユンギさんがお隣の人」


私が手短に答えた。
そんな話をしてたら携帯の背面のライトがチカチカと光ったのが見えて手に取る。


민윤기
『오늘부터 나 없는데(オヌルプト ナ オムヌンデ)』
(今日から俺いないんだけど)


민윤기
『아무것도 받지마(アマゴッド バッジマ)』
(何にも受け取るなよ)


민윤기
『알겠니?(アルゲッニ?)』
(分かった？)


タイムリーな人からのメッセージが立て続けに三個。
きっと私の既読がすぐにユンギにも確認できたに違いない。

細かい説明がなくても何の話かすぐに分かった。
だから"分かってます"と返した後でそれだけじゃ味気ない気がして


『다녀오세요(タニョオセヨ)』


と、二個目を送った。
そしたら直ぐに既読が付いて


민윤기
『다녀올게(タニョオルケ)』


なんて。
やっぱり私よりユンギの方がよっぽど律儀だ。
なんて思いながら携帯を元の位置に置いた私にBTSファンの同期が言った。


「A、ユンギの事好きなの？」


青天の霹靂。

31→←29

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す